ドッペル原画展

幻覚

無理矢理に読んだ本が少しの不安に重なり、
文字が崩れて頭に散らかる
文で表された絵画が記号のように連なって、
清潔感の無い泡のようなものが脳を抜けて目から溢れている

汚らわしい物からしか汚らわしい物は生まれない、
叫び声が聞こえて耳を塞いだ自分の姿を想像すると
幻覚の中で君が揺れる

透明な色とは裏腹に清潔感が無いものは適当に道を行ったところで突然横から現れた鋭利な叫び声に突き刺されて死んだ、
停止すると何も思わなくなった、何も思えなくなった

危険信号がずっと点滅しているのを
幻覚の中の君が運転する車の助手席でずっと見ている
進むことも停止することも、
どちらとも関係の無いことで、
どちらでも良い
勝手に進んでいく車道が大きく湾曲する
赤信号になると聞こえる叫び声に合わせて
君がまたムンクの叫びの話をする

遠くから誰かの叫び声が聞こえて耳を塞ぐ
耳を塞いだ自分の両手に君の手が重なって
初めて君の温度を知ったら事故にあった
君の運転で逝く場所が決まるのに、
ハンドルを手放すなんて許さない

そう思って君の手を思い切り引っ掻くと
君の柔らかな肌が抉れてしまった
事故にあったままの君と二人で君の抉れた肌を探した、
湾曲したままの道路にはいつの間にか初雪が降っていて、
辺りは真っ白になった

大きく反り返る白い肌の身体の上で
君と二人で肌を探している
遠くから誰かの叫び声が聞こえても
もう耳を塞ぐ余裕がなかった

人間の欠片が落ちた君は
人間味を探すのに必死で
初雪にも気づいていない

時折思い出したように

「だってムンクが聞いた叫びって、ムンク自身の中にしか存在しなかった幻聴でしょう?ムンクの叫びという絵には幻聴の世界故の不気味さしか僕には見当たらないね、何か文句ある?」

と言い放つ幻覚の中の君を、
ハンドルを手放しても尚、好きでいる事を此処に記して深く反省したならば、もう二度と会えないように車内に閉じ込めたい