ドッペル原画展


夜になると身体の奥から何かを掬い出すみたいに誰かの指がうねる その指がいつの間にか頭の中にまで届いて脳の中を掻き回すと、気分が悪くなっていく さしづめ気持ちの良い夜の中で眠りに落ちる 可笑しな化学物質が反応するまで、全部諦めて涙が出るまで、執拗に脳の奥から脳の外へと指が動いていくのを感じながら眠りに落ちると、夢の中でその夜より前の事が繰り返される さっきまでいた知らない場所の事、夢みたいに現実感の無い時間、悲しい日


悲しい日は自分が悲しいせいで誰かに泣きついていないと生きていけない それなのに誰かを深く信用する事も大切に想う事も出来ないから何も考えないで指を待つ ずっと気分が悪い 何処に居ても、何をしても、夜じゃなくても、頭の中で指がうねりはじめる 中から何かを引き出そうとして、何度も何度も頭の中を撫でられている様な気分

やっぱり治っていない 自分の事なんてどうでも良いと思いたくて、悲しくなるに決まってる話ばかりに聞き耳を立てる癖と、頑なに楽しくなろうとしない癖

指の話は全部彼の勝手な妄想で、その一部にされているのが私の感覚だった 体だけ連れて行かれて、知らない内に何処かで侵されている お湯に溺れる自分を見て大変な事になった事に後から気付く 全部が失敗、生まれてきたことも

或る筈の無い優しさ 或る訳が無い優しさ 無意味な優しさ 好きな声が聴こえても少しも動かない気持ちと殺意 何の訳にも立たない、未来に少しも残らない優しさ その優しさが憎い訳でも嫌いな訳でもないけれど、少しだけ邪魔になる どうにか自分の手を加えないで、それが勝手に何処か遠くへ居なくなって欲しいと祈ってしまう 早く消えてほしい 本当は何処か遠くにさえも存在して欲しくない それが遠くに在ると思うだけで、自分の存在がそれのお陰で成り立っているのかと思ってしまいそうで、苦しい

今度悲しい日が来たら全て残らず消してしまうような悲しい事がしたい 気持ちを隠したままで話をしたいし、さよならも言わずに目の前から一生消えてしまいたい 一生会いたくない、全部嘘にしてしまいたい 何処を探しても居ない存在になってほしいと清らかに祈ってあげる そんな風にしか思われないなんて、そんな風にしか思えないなんて、君は可哀相な人