ドッペル原画展

連絡


何を信じればいいのか分からない時に何かに向けて祈り願うことは時々自分の事を超えて予想も出来ない行動や言動を生み出してしまうことが在る、脳の意識が起こす予想外の生き方を第三者の目で観てしまうことも在るということを身を持って実感したと同時に、大変な病にすでに僕の言葉は冒されているという事を、この冬に知った

大きな神様のような国家に包まれて意志が神様にコントロールされた末に宇宙の様に不可解な現実が自分を超えてしまった時、その時に何を信じて何を比べて何を見ればいいのかを考えたくなる、と白衣の男に言うと真っ赤真四角鋭利な固形物を手の平に乗せられ軽く微笑まれ、そして僕は無理やりに服を脱がされ、軽く微笑まれ、気付くと其処は誰もいない海でした
僕は丸い鏡を持ち、それを太陽に透かす
透けた光が文字を作って恐れ慄く古代神

今自分は国に守られ国に存在しているのに、国の意志を知らない気がした 神様に動かされているこの脳は自分の物なのに神様の意志は全く透けないのが微笑ましく
そして不気味な事だった

雑記


天国や地獄やリンボ
神様や仏様は人間が創りだした幻想で、
人魚もまたその幻想の一つ

死んだら自分はリンボへ逝くと思う
死んだら魂は幻想に溶けて、
生まれ変わるために骨になりたい

Q.魂という幻想は、
天国や地獄という幻想へ向かうのに
死ぬまでに過ごしてきた時間という
真実 現実 事実は一体何処へ向かうのか

A.時間は海へ向かい、海に溶けて塩になる
元の場所へ戻ろうとする時間が、死体に逆らって鱗になる
幻想はその死体が持つ真実を食べる

とのことです 神様

生きていたらいつの間にか、
全てが幻想になった気がする
幻想が真実も時間も全部食べていく

自分が生きている此処が時々全部夢になる
自分以外の全員が夢の中の架空の登場人物でしかない、
もしくは今見ているのは自分ではない誰かの夢なのだと僅かに幸せな勘違いをする時がある 

「自分は常々
    夢の様な世界に包まれて生きる」

幻想に包まれたまま、海底の様に冷たくて大きな暗闇へ落ちて、ゆっくりと生きた時間が海に溶けて塩になっていく感覚を知る時、きっと自分は全ての時間を取り戻したいと願う

時間を取り戻したいと願う事が
死を想うという事ならば
メメント・モリと言う言葉は
どれだけ塩臭く、
どれだけ穏やかでないのだろう

どれだけの悲しみと幻想への怒り
知る由もない自分の骨への妄想が
もう決して膨らまない肺と一緒に
どれだけ溶けるのか見てみたい

戦争で死んだ人々の溶けた時間が
言葉と共に塩の柱になる光景が
舞台上に見えて涙が出る
自分は一度も死を想った事がない

「海の底へ沈む人間は、
          皆死にたがっていた」

自分にとっての"時間が溶ける海"は この夢の様な日常そのもので、いつだってその海に沈もうと思えば沈める場所にある

とても身近でとても深く、
既にもう一人の自分が沈んでいるかもしれない

そう考えると途端に怖くなり、
極端に大きな君の掛け声と
心を読むことの出来る君の才能だけを信じた
・今はまだ本当は死にたくないという事
・まだ自分は死んでいないはずだと願う事
この二つをわざわざ帰り道に確認し
そして願うと、何故だか身体を取り囲む幻想全てを、
幻滅させたい気分になった

誰かが死にたくて僕の海へ飛び込む時、
どんなに死が近くにあっても
死を思う事は難しい
君は幻想という殻に守られて
死を感じる事は出来ない
というたった四行の注意書きを目にして
遠くへ逃げてゆく

模倣

市民は四角い箱を被っている
過去の視線はどこかに消えて
娯楽は恥になった

僕は未だ恥を犯しながら人間の言葉が張り付いて、
眠れない夜を必死に守る

言葉は無価値で全部不可欠
誰の言葉を借りても自由になれない

天国に行きたくて
時々電車に乗る

「天国は自由」
借りたままの本の裏表紙に書かれた
乱雑な落書き

駅のホームの自販機が少し呼吸
売り切れの文字が点滅して
リズムを打つ
僕は笑っている

恥ばかり
箱を被らない命の無いもの
その視線に怯えている

空き缶が捨てられたごみ箱
滅茶苦茶に掻き乱されて
何にも触れられない
何にも触れたくなくて怯えている
箱を被った市民が同化、
決して交わらない視線それをかわして一体今日は何をしているのだろう 何の意味も持つことが出来ず誰にも響かない文章、何にもなれなくて時々医学書を開く 生前前から全てを知っている様な気がして全てへの興味を手放す、拉致の開かない会話を永遠に自分とし続けていたい、永遠じゃないのなら今すぐに君を殺してしまいたい、こんな事を言うとどうしたのって馬鹿にしたように笑う友達 その光景が浮かばない レンタルビデオの雪崩で死にたい、防犯カメラに写る命の無い人間 上映された気味の悪い死体、どうしたのって鏡の前で笑うのが癖になって知らない他人に会いたくなる 適当なことばかり言って染み付いたのは無関心な春、永遠に見ることのできない桜の羅列が今年も頭の中に芽生えて、早い所枯らしたいと思う 自分の中から湧き出るこのくだらない願いに願いを託す、生前前から全てを知っている様な気がして、思い入れのある事を身勝手に手放せなくなった 何を言葉にしても全てが恥ずかしい 自分の事は自分だけ知っていたい、言葉は自分を恥ずかしい存在にするだけの無関心な春だ

愉快


今年の春、一方通行の長くて広い道を
自分だけが一人逆走している風景を見る
逆走を辞められない事に恐れながらも
警察のいないその空間で
自分が捕まることは決して無かった

「2015/4/14

 正しい方向へ歩く人間が
 自分の横を過ぎる時だけ
 スマートフォンから視線をずらし
 イヤホンを外しながら
 僕の顔を無表情で眺めるのが怖い」

と日記に書いてあるのを見る
不安になって日記を閉じて
Twitterをする、
日記と同じ事をツイートしたら
10000リツイートされて炎上した
意味が分からなくなってTwitterを辞めた

やる事が無くなり毎日逆走を続けていたら
いつのまにか正しい人間は、
逆走する人間を、
眺めるだけでは気が治まらなくなった様で
すれ違いざまに針を刺してくるようになった
針を刺される感覚が気持良くて
逆走するのがもう絶対に辞められなくなった

夏が来て、
体は針だらけで壊れそうになる
一体自分は何故この道を
進んでいるのだろうかと考えるようになった

道を進んでも進んでも何も見えず
聞こえるのは奇妙な笑い声と
聞きたくもない暴論だけだった

気持ち良い感覚は既に麻痺し
刺された部分からは
腐敗した自分の内肉が崩れていて
針の先には毒が塗られていた事に気付く

自分とは反対方向に進む人間が
日に日に増え
人混みによる圧迫死を考えていたら
眼球を針で刺された
最後に見た針の先端の奥に映る顔が
自分が以前生きた胎内の持ち主だった


今年の秋の事はあまり思い出せない
今年の冬の事もあまり思い出せない

今年一年について振り返ることが出来ない

それはまるで道の途中、
正しい人がすれ違いざまに自分の耳元で
何か囁くように言葉を零した時
咄嗟に振り向く様な瞬発力、
あるいは零した言葉に対する興味、
関心、意欲、好奇心、
そういう物の衰えと同じ事である様に思える

眼球を刺されてからずっと
向こう側から来る人間が
すれ違う度に何か囁く

咄嗟に振り返り
言葉を追いかけ道を引き返せば
今迄とは違う方向に進みながら
誰かに針を刺してしまいそうで怖かった

言葉と道連れになる事が
自分にとっては何よりも不幸で
言葉を追いかけても追いかけても
何故か絶対に、
追い付けないような気がした



  ー罠の様に小さく囁かれる言葉について

無題


自分の事が手に負えなくなってしまった
泣くために音楽を好きになった
誰の言葉を借りても自由になれないのは、自分以外のものから発せられた全てを、拒否して、拒絶して、嫌っていたからなのに、そうしてしまう自分が嫌になった

新約聖書を読み始めた
まるで読み始めることが最初から決まっていたみたいに
僕の人生は、僕がいくら力を注いだって、もう決まっているような気がした
或いは力を注ぐ行為自体をも支配されているような気もした

君が、自分の意志で人生を選んだ事が無いという話をする度に、悲しんでいるように見せて心の中ではこの世界を馬鹿にしているのを僕は分かっている。
小さな箱の中で男の人生の道具になった君が、幸せそうなふりをして大きな声で"世界"と叫んだことも僕は知っている。

本当は誰かに認められたくて、愛されたくて必死な事も全部全部分かっている。君の劣等感は単なる気休めで、救いの手が差し伸べられたら平気な顔でそれを振り払うような、他人の困惑した頭が大好きな君、

僕は君に罰を与え続けて快感を覚えている
可哀想になる君を見ていると、
景色が滲んで意識が強張る

他人の困惑した頭が好きなのに
自分が困惑すると酷く恥ずかしくなって
泣いてしまう様な君が、
人を思い続けることが出来ない自分から
離れてしまったらいけないよ
離れてしまえば、僕が与える罰以外を理由に、君はとんでもなく大きな渦のような黒い影に覆われて深く困惑してしまう

そうなると、もう、駄目だ
僕の与える罰が無視されるという事が、
初めから決まっていたことならば
僕の人生は何の為の物だったのか教えてほしい
君が、思い続ける事の出来ない人であることを望み、君を泣かせる事が出来るのは僕だと言う事を、僕が正常なうちに
君という女の為だけに書いている

幻覚

無理矢理に読んだ本が少しの不安に重なり、
文字が崩れて頭に散らかる
文で表された絵画が記号のように連なって、
清潔感の無い泡のようなものが脳を抜けて目から溢れている

汚らわしい物からしか汚らわしい物は生まれない、
叫び声が聞こえて耳を塞いだ自分の姿を想像すると
幻覚の中で君が揺れる

透明な色とは裏腹に清潔感が無いものは適当に道を行ったところで突然横から現れた鋭利な叫び声に突き刺されて死んだ、
停止すると何も思わなくなった、何も思えなくなった

危険信号がずっと点滅しているのを
幻覚の中の君が運転する車の助手席でずっと見ている
進むことも停止することも、
どちらとも関係の無いことで、
どちらでも良い
勝手に進んでいく車道が大きく湾曲する
赤信号になると聞こえる叫び声に合わせて
君がまたムンクの叫びの話をする

遠くから誰かの叫び声が聞こえて耳を塞ぐ
耳を塞いだ自分の両手に君の手が重なって
初めて君の温度を知ったら事故にあった
君の運転で逝く場所が決まるのに、
ハンドルを手放すなんて許さない

そう思って君の手を思い切り引っ掻くと
君の柔らかな肌が抉れてしまった
事故にあったままの君と二人で君の抉れた肌を探した、
湾曲したままの道路にはいつの間にか初雪が降っていて、
辺りは真っ白になった

大きく反り返る白い肌の身体の上で
君と二人で肌を探している
遠くから誰かの叫び声が聞こえても
もう耳を塞ぐ余裕がなかった

人間の欠片が落ちた君は
人間味を探すのに必死で
初雪にも気づいていない

時折思い出したように

「だってムンクが聞いた叫びって、ムンク自身の中にしか存在しなかった幻聴でしょう?ムンクの叫びという絵には幻聴の世界故の不気味さしか僕には見当たらないね、何か文句ある?」

と言い放つ幻覚の中の君を、
ハンドルを手放しても尚、好きでいる事を此処に記して深く反省したならば、もう二度と会えないように車内に閉じ込めたい