ドッペル原画展

限界

 

もう二度と失踪出来なくなった。

もう二度と、死にたいなどと思えなくなった。

そのことについて、私は後悔していない、と思うけれど、世の中や自分の環境がどれほど変わろうと、ずっとずっと初めから変わらず孤独な人間は居るのだと感じてゐる。周囲は目まぐるしく変化しているのに、自分だけが独りで居て、何もかもから置いていかれる前に、もっと何も知らなかった若いうちに、失踪しておけばよかった。

大人になるというのは、選択肢がどんどん減っていく状況に耐えるのと同意義。ある地点に立つと、どれかを選ばないと前に進めなくなる。選びすぎて、選びすぎて、選びすぎて、もう次に進むべき場所は次第に自動的に決まっていってしまう。型に嵌められて、身動きが取れない感覚が、年々強くなっていく。私は、きっと何も選びたくなかった。

夜中のデニーズが好きだった。こっそり家から抜け出して、デニーズで失踪計画を立て、好きな言葉をノートに書き綴る。その後、それらのワードを根底にして、芥川賞を受賞出来るような、超現実的で、濃厚で、真っ暗い、純純純文学を書くんだ。受賞会見ではゴスロリ風の黒い着物を着て、白目を向いて、ダブルピースをする。実に理想的な未来である。さて、好きな言葉をノートに書いてみよう。圧倒的諦観、不自然な春。何が原因なのか分からないが、この2つしか思い浮かばないね。おかしいな、私は川谷絵音ベッキーの未来を未だに信じているのに。「心残りを反芻してたね」と初音ミクに言われた。そのとおりだが、何処に失踪するべきか?答えは出ないまま、デニーズで何かしら注文して、普通に美味しくて、また憂鬱になるのだろう。

Listen to 太陽みたいだ(demo) by österreich on #SoundCloud https://soundcloud.com/onlyifyoucallme/demo-3?p=a&c=0&si=a026703ff965487097a02d4dc9f33c80&utm_source=other&utm_medium=text&utm_campaign=social_sharing

 

 

夜の新宿が好きだった。よく1人で行った。何でもあるのに、ひと呼吸ついてゆったり座れる場所すらない不均衡な感じが良かった。楽しそうに見えて楽しくなさそうな人達、悲しい場所。悲しさや寂しさを祝福するような、キラキラした百貨店の光。そういう場所に1人で行くと、寂しいのに落ち着いた。鬱病に包まれているような感じがした。その時間はとても幸せだったんだと思う。

また選択を間違えたのかもしれない。ずっとそうやって、寂しがっていたほうが、楽な私の人生だった気がする。

 

↓かなり前に読んだ本

5月より 泉鏡花

貧しき人々 ドストエフスキー

愛と認識の出発 倉田百三

死後の恋 夢野久作

太宰治情死考 坂口安吾

姥捨 太宰治

白鳥 マラルメ

薄紗の帳 マラルメ

エロディヤット マラルメ

ソネット マラルメ

人工天国J.G.Fに ボードレール

最初の苦悩 カフカ

幽霊 江戸川乱歩

接吻 江戸川乱歩

 

最近読んだ本

あひる 今村夏子

バンドオブザナイト 中島らも

密やかな結晶 小川洋子

笹の舟で海をわたる 角田光代

護られなかった者たちへ 中山七里

月の小屋 三砂ちづる

マリーの愛の証明 川上未映子

シャンデリア 川上未映子