ドッペル原画展

七月

 

手首と太腿から血を流したクラスメイトにハンカチを渡そうとしたら「あなたのせいだけど?」と言われた瞬間の、心臓が鈍く跳ね上がるような蠢きが今でも消えない。あなたが転校してきてから全部滅茶苦茶になったと嗤っているのが、心底気持ち悪くて軽蔑した。

だから私の両手首には傷一つ無い。薄くて薄情な耳朶にも穴一つ空いていない。大人になっても、ビール一本すら飲み干さない。染めた事のない真っ黒で真っ直ぐな髪。鏡に映る顔は、自分ではない誰かのお面の様でとても怖い。"どうして僕らの身体は心より美しいの"という歌詞が頭の中でぐるぐる廻る。こんなに醜い心でも、身体は白く更新されていくのだから。偽物の姿で醜い心を隠している。本当は今すぐにでも、血を流して、アルコールに溺れて、自分を汚して、どうにかなってしまいたいのに。誰も見抜いてくれない、壊してくれない。見抜かれたくない、壊されたくもない。

どの観点から見ても、いつも何かしらに抑圧されてるという意識が拭えない。抑圧は生を蝕んでいく。だから根本的に生きるのが向いていない人になる。向いていないというより、気力が無い。この生ぬるい抑圧の中で漂い続けてる途中、ふとした瞬間、それを弾くような圧倒的な存在が現れたらどうなってしまうのだろうか、と興奮する事が良くある。むしろもうその想像でしか興奮出来ない気持ち悪さ。私を作っている体裁や常識、あらゆる馬鹿馬鹿しいものが、全て見えなくなるくらいに眩しい、圧倒的な光が欲しい。破滅するのは悪い事じゃない。と私が私に囁いている。壊れないことが人生において大切なわけじゃない。

本当に大切な物だけを、気が狂うほどに愛していたいだけなんだよ。そうすれば、身体が要らなくなって、言葉も要らなくなって、今まであれほど執着していた沢山の憂鬱すら要らなくなって、ただ一つそれだけが残る。壊れてしまっても、それだけが私達を結びつけておける一つの所以となるような。そんな0か1かの世界に憧れている。

私は、私が壊れるのを待っている。そうしたら、本当の私が内側から生まれなおして、救われる気がするから。早く其処に還りたい。それが私の人生をどれだけ深く損なうとしても。

こんなことを思ってしまう夜でも、朝が来ればまた抑圧を受け入れる。そしてやっぱり一生嘘をつきながら生きていくことを、誰かあらゆるメタファーを使って肯定してください。何でも他人頼み。だから私はいつまでたっても独りでは呼吸が出来ないのだろう。こんなにも独りになりたいのに。生まれ変わることも、生まれなおすこともできず、結局何にもなれない。

何にもなれないなら、いっそ入院したい。前はご飯のメニューが一ヶ月決まりきっていたから、同じメニューを三周した。メニューに飽きても飽きる程病院が好き。やっぱり嫌い。入院したいと思う時は大体どこかおかしい時。入院したくない。笑えばいいと思うよ。ってシンジ君に言われたい。入院中に読んだ「脚本の書き方」みたいな本に「伝えたいことが無いと脚本は書けないです」みたいなことが書いてあった。世の中に伝えたいこと、何一つ無い。強いて言うならば、伝えたい事が何一つ無いですってことを伝えたい。脚本はもちろんのこと、最近小説が全く書けない。頭にもやがかかっていて、ぼーっとしてしまう。時間は有限なのに。夕方になると電池切れでとてつもなく巨大な脱力感が襲い掛かってくるのです。朝も昼も電池ギリギリだし色々キャパオーバーで少し大きめの物音とか聴こえると軽く発狂しそうになる。次第にまたあの動きで心臓が蠢いて疼いてきてどうしようもないね。ドーピングしたくないので夏のせいだと思いたい。冬が来たらがんばります。

最近読んだ本↓

地図と領土 うえるべっく
落葉   マル ケス
むらさきのスカートの女 いまむら
街とその不確かな壁 村上 春樹
異類 婚姻譚
ぬるい毒
幸せ  最高ありがとうマジで! もとやゆきこ   
家庭用安心坑夫 こさがわちと         
初恋と不倫 さかもとゆうじ          
ほんとうの私 くんでら            
比較宗教学 ウィリアムEペイドン        
内部 シクスス

本谷/有希子さん。粘着質な気味悪さで読んだら元気になった。ズブズブしてドロドロしてネチネチして救いが無いくせにどこか歪んだカタルシスとエクスタシーを感じる話がわりと好きなのは産まれつき。園/子温と同じ誕生日に産まれた人の宿命。宿痾。

シクススの内部はどこを読んでも一文一文が美しく、とても好み。浄化されるようだった。他の作品も読み尽くす。

映画はずっと観たかった別れる決心を観た。他にも色々観たけどあまり覚えていない。あ、怪物観ました。ホシカワヨリの「大丈夫なんだよ。時々僕も、そうなる。」という台詞が印象的で好き。まだ幼いのに自身の混乱を手懐けてる感じが狂気じみて見えたので。

音楽は変わらず。Österreichの詩になりたい。旋律になりたい。最終的には弾かれるギターになりたい。