ドッペル原画展

敬具


拝啓 
夏の終わりを如何お過ごしでしょうか
目眩がしそうな季節の移り変わりに
貴方もそろそろ飽きてきた頃でしょう


それはそうと、どうしていつも貴方は貴方の扉を開いて右に曲がり、突き当りにある空色の扉を開こうとはしないのですか

目眩がしそうな季節の移り変わりに
貴方も危うく飽きてきた頃でしょう

扉の中の世界も、
目眩がしそうな程に変わることのない世界に飽き飽きしているのが少しは分かるはずです

その扉の向こうに閉じ込められている淡い光のような球体が、貴方の手によって弾かれたいと思うような瞬間が、その瞬間こそが、夏の終わり

貴方が幾つの季節を越えようとも
決して触れようとしなかった球体は
危うい事に今、
溶け出そうとしている事を此処に伝えます

閉じ込められたまま
貴方の中で溶けて死んでゆくのです

存在しているのに閉じ込められた球体は
貴方が思い出さない様にと必死に隠している
存在だけを持つ夏の終わり
溶け出してしまえば扉の向こうは空になり
空色の扉の意味も無くなるでしょう

貴方はその光を 淡い光の色を
思い出す事もなく忘れていくのです

まるで誰かが乱雑に散らかしたような雲や
噎せ返る空気の隙間
不自然な誰かの声と自然な誰かの憂鬱
水面に浮かんだ麦わら帽子と真っ白な靴、
海に消えてしまった愛しい体さえも